2012/01/04

人間の箱

ずいぶん前から透明のアクリルBOXに絵の具を入れている。透明の箱には、大小さまざまな色の絵の具が所狭しと詰め込まれていて、外から見ていると、まるで色彩を運ぶカラフルな満員電車のように思える。この美しい乗り物は、どの駅で停車して、どの色が降りて、最後にはどこに辿り着くのだろうか。そんな銀河鉄道を見ているような、夢心地にもなってくる。

人間とは、世界とは、このような箱の中に存在しているのではないだろうか。自己という箱の中に。

一度きりの人生だから、やりたいことをやりなさい、好きなことをやるべきだと、まわりの人は個性を押しつけて、「私」はそれが個性的であり、本当の自由だと思ってしまう。「私」が力めば力むほど、「私」の箱は強固になっていく。やがてその箱を守るためには、どんなことでもするようになる。表現という名の下に、作品を綺麗な箱に収めて飾り、麻薬のような喝采のシャワーを浴びて安心する。しかしその声が消えたとき、「私」は一瞬だけ箱の存在に気づいて、心底脅える。だから繰り返す。「私」の箱が壊れてしまわないように。ほんとうのことから目を背けるために。夢の中では喝采が木霊している。反響に目を覚ます。そうやって麻痺していく。自由を手に入れたつもりが、自由からどんどん遠くなっていることに、気づかなくなる。それはとても、哀しいことだと思う。

一度きりの人生だからこそ、自己の箱の中に入っていないものに手を伸ばせばいい。まずは自分を疑うことからはじめて、やりたいことや好きなもの、箱の中に詰め込んだものを、全部捨ててしまえばいい。大勢の意見なんか聞かずに、人を頼らずに、箱の外を感じさせてくれるものを、自分の目で探せばいい。衝動が沸いてきたら、従えばいい。やがて楽観と達観に包まれて、未来を予見する兆しが訪れてくれる。やりたいことや好きなことなんか吹っ飛ばしてくれるリアリティがやってくる。忘れたころに、向こうから。そう思う。

                           ★

今日は朝から大雪だった。強い風が吹いていた。鮎喰川から粉雪が舞い上がっていた。下から上へと。下から上へと。下から上へと。下から上へと。

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