2011/04/24

雨と休日


 雨の休日、ひさしぶりに森に入った。雨と森はほんとうに仲がいい。霞がかった森は、ごく特別な瑠璃色の演出で出迎えてくれた。一応カメラを構えたが、畏敬の念が沸いてきて、シャッターを押せなかった。こんなとき、簡単に撮るのを諦めてしまう。捕らえるのは絶対無理だと、わかってしまう。誰かに伝えようという前提が発生したとき、景色が壊れてしまう。構えるのをやめると、景色が元通りになる。ただ切り取るという意識でしか撮り方を知らないから、こうなるのだと思う。絵のモチーフとしての取材撮影という前提なら、怖いものなしの野蛮さが意識を支配してくれるのだけど。描けるのはずっと先だとわかっているから、もうこの森に入るときは、カメラを持ってくるのをやめよう。いつもの場所に坐り、コーヒーを飲みながら、そう思った。気が済むまで至福を味わってから、森を出た。

 それから河原に下りてみた。雲はまだ暗かったが、雨はやんでいた。岩と岩に挟まれて窪んだ水場に、小魚でもいないかと物色していたら、驚くべき数のオタマジャクシがいるのに気づいた。遠目には岩にへばりついた藻に見えていた黒い揺らぎの影が、すべてオタマジャクシだった。目を凝らせば凝らすほどその数が天文学的な色を帯びてくる。しかもわりと大きな水場のあらゆる場所に、黒い揺らぎがあった。合わせて万単位の数かもしれない。しゃがみこみ、圧倒的な数を見つめて放心しているうちに本格的に陽が陰りはじめていた。この一匹一匹が全部蛙になったとしたらと考えると、ゾッとした。はたして無事に蛙になれるオタマジャクシは、このうちの何%だろうか。鳴き声で知るその日が恐ろしくはあるけど、遠目には地味で目立たない、暗い影の揺らぎの正体が、ギラギラとした生命力そのものだったという事実は、やはり嬉しい。









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